タモリの新番組。非常に丁寧にしっかりと作られている番組。……というだけでない、深くてどっしりとした存在意義。そして第2シリーズへ。好評の第1シリーズを受け、どこがどう変わるのか、あるいは変わらないのか。
——気配を広げてわかりやすく見せたり、ときに“無”からビジュアルを生み出す再現CGがありますが、番組の中でこれらにはどういう役割をもたせていますか?

見ている人にホッとしてほしい部分でもあるんですね。番組の基本はロケです。それをそのままつなぐというのが大きなコンセプト。よくあるのは、途中でVTRの紹介が長く続いたり、ナレーションで執拗に説明したり、何かのコーナーを入れたり。でもわれわれはロケだけで押し切っちゃおうと。その中での、貴重なアクセントがCGですね。歴史的事実として、昔は川が流れていたと。でも今ではかすかな痕跡しかない。その痕跡と歴史的事実をうまくリンクした形でイメージできる映像を作ろうと。もちろんCGなんていまでは珍しくもないので、そこは工夫のしどころです。昔の写真や絵が残っている場所なら、それを動かしたり。いまの実景と昔の風景が地形的にうまく合うなら、それを合わせた画を撮って、変化のプロセスをきちんと見せるとか。“説明のためのCG”ではないんです。風景を眺める延長で見ていただけるようなCGができないかなと。実はそういうコンセプトがあるんです。
——これまでで印象深い場所はどこでしょうか?
浅草の伝法院ですね。非公開の見事な庭園があるということで行ったんですけど、池を掘ったときに出てきたという貝を見せてくれたんです。住職が「古い貝だと思うんですけど、みんな興味を示してくれなくてね」っていうのを取り上げました。そこに関してはもともと調べて行ったわけではなく、たまたま出てきたエピソードなんです。それを番組で分析してみたらホントに縄文の貝だったんですね。何かの文献で調べてわかったことではなく、この番組が動いたからこそ出てきた事実……そういうことが出てくると、いいですねえ。単に入れない場所に入る、というだけでないプラスαが出てくるとね。
——業界視聴率も高いようですし、NHKオンデマンドでのアクセス数も圧倒的に多いようですね。
小杉さんは、最初に「NHKらしからぬ番組」っておっしゃいましたよね。でも僕、実は、すごくNHKらしい番組だと思っているんです。……というのはきっちりとしたリサーチをして、きちんと取材したことをストレートに、あんまりヘンな演出を加えずに出しているという。30秒ぐらいの番組タイトルがついて、エンディングにも音楽が流れてテロップがゆっくり出て行く。実はこの番組には、NHKが培ってきたオーソドックスなテレビのスタイルがあるんです。それが夜10時にドーンと放送されることって、むしろ今では新鮮なんじゃないでしょうか。本来テレビとはこういうものだったんですよ。でも、だんだん「古くさい」といわれて消えていった。民放が目先を変えて作る新しい毛色の番組を、NHKも追従する傾向がありました。
——なるほど。
NHKらしさにこだわると若者は離れていくから、と。いや、でも、そこでいうNHKらしさって一体何なのか……今回、僕らのチームではもう1回きちんと考えてみようと思ったんです。それで素直に実践してみました。すると「家族で楽しみに見ています」という意見をたくさん頂くようになりました。それは、NHKはもとより、テレビが本来持つ “らしさ”なんじゃないかと思うんです。録画が普通になって、DVDボックスでまとめてみることもできるし、オンデマンドやネット配信もある。映像の見られ方って、いまやテレビだけじゃないですよね。そのなかで決まった時間にテレビの前に座って、番組が始まるのを楽しみにして見る。僕らがNHKらしさ、テレビらしさを追求して作った番組だから、そんなふうに受け入れられたんじゃないかなと、僕は密かに思っているんです。僕らは配信しているんじゃなくてテレビで放送しているんですから。
——「ブラタモリ楽しんで頂けましたか? それではごきげんよう」という優しいエンディングの言葉も、そういえば昔ながらのテレビ的ですよね。
そうですね……テレビの中でNHKが内容をまとめてコメントをしたくなかったんです。「どうでした? みなさん。ではまた来週」だけの方がいいだろうと。そういう中でクラシックな表現を探した結果、こうなったんですね。些細なことですけど、もともとはテレビってこんな感じで終わっていたんじゃないかっていうイメージです。番組のまとめはタモリさんの感想の中で十分。メッセージは伝わり、余韻は残るだろうと思っているので。
——そしてエンディングテーマ。あの「MAP」という曲は井上陽水さんですね。この番組のためのオリジナルなんですか?
そうなんです。タモリさんの番組なので、親しくされている陽水さんがいいのではないかとスタッフが言い出して。どうかなぁ、やってくださるかなぁ……って思いながらも「頼んでみたら?」って言ったら、引き受けてくださって。ナレーションの戸田恵子さん含め、結果的に一流の人で固めている状況になりましたね。
——この番組のジャンルをどのように定義していますか?
最初「探検散歩番組」って言っていたんですけど、内容とはべつにバラエティであり、教養番組でもありというところを両立できている番組だと考えています。1本目の「原宿」の回を作ったあとにアンケート調査をしたら“教養的な要素がある”“肩が凝らずに見られる”っていう感想が出てきたんです。普通は相反する要素が均等に現れた。この両立ということをいろんな番組が目指しているんですが、演出がすぎて台無しになることが多いんですね。サラッと見て、いろんな新情報を得ることができる。狙いすぎることなく、非常にうまくこの位置にいることができている気がします
——この番組の視聴者の層は?
最初は若者を中心に、30~40代の深夜番組ファンが付いてくれればなと思っていたんですけど、子どもからお年寄りまで幅広いですね。「深夜っぽい」とおっしゃいましたが、見られ方が広がっていると思うんです。深夜っぽい匂いのするものを夜10時に、ちょっとマニアックな要素のものを普通に。「家族で見てます」っていう声を頂くからといって、家族向けにかみ砕いて作ったらダメになるでしょうね。今のまま、ちょっととんがっていたり、ちょっとわからないところがあったり、コアな部分を残しながら新しいネタをきちんとやっていく。狙いすぎず、素直に。それでまた新しい人にも見てもらえるのではないかと思っています。
——第2シリーズが始っているわけですが、第1シリーズから改善した点は?
基本的には同じように歩こうと思っていますし、「スゴイところに入ってる!」っていうのは今後も柱として残していきたいですね。ただビジュアルとしてスゴイだけでなく、そこに入る意義がすごいような場所も。
——それはたとえば?
ビルの下の貯水槽。ちょっとしたことですけど、テロ対策などの面から、あまり見せてくれないんですよ。そういうところに行きながら水道の歴史を追ってみたり。あるいは、東京の人たちと“家”の関係をおったり。単純に地理的なエリアの散歩だけじゃなくて、テーマで切るようなこともいくつか用意しているんです。庶民が長屋にしか住んでいなかった江戸時代から、持ち家という思想はどんなふうに始まって団地が生まれてマンションが出てきたのか……という流れを、現存する住宅を巡りながら見ていくとか。地理的な散歩からははみ出すテーマも取り上げていこうと考えています。
——そういう意味でも作り方とか全然違うとは思うんですが、『タモリ倶楽部』との棲み分けはどう見てますか?
僕らもそこは最初から気にしていました。「似たようなものをNHKが作り始めたね」という意見も最初のころには結構あって……。
——もしそうだとするなら、民放のマネも甚だしいことになりますよね(笑)。
ええ。そこは取材のスタンスや作り込む目線の違いを……つまりNHKらしさをきちんと出していったので、だんだんとわかってもらえたようです。だって同じなら、僕らが作る必要もタモリさんが出演する必要もないですからね。1シリーズやってみて、違うものができることがわかって、第2シリーズにつながった部分もあります。『タモリ倶楽部』さんは、長く続いている番組で深夜帯にして僕らより数字を取ってる回もあって、非常にリスペクトしています。一方で僕らは大きく無理に“違いを出そう!”ということではなく、NHK的な、NHKならではのものを作っていこうと思っています。
——テレビ東京の『空から日本を見てみよう』も同じように語られることがありますね。
一緒に特集されていることもありましたね。あちらの皆さんは私たちの番組を見てくれてるみたいですし、僕らも「あれは面白いよね」って言い合ったりしていました。一時期、バンバン海外のスゴイ場所に行く番組が多かったなかで、未知のところがもっと身近にあるっていう感覚をみんなが持ち始めたんじゃないでしょうか。意外に自分たちの地元を知らないんですよね。それでヘンに競争するというよりは、それぞれが自分の考えた形できちんと表現していけばいいんですよね。その中できちんとやっていこうと。
——尾関さん自身、気になるメディアはありますか?
「テレビを見ても面白くない」という意見を沢山聞くので、「テレビって面白いじゃん」って思わせたいんですよね。ならば何が面白いのか……わかりやすい形で知的好奇心を引くものがいいんだろうな、とは思っているんですけど、もちろん最終的な答えかどうかはわかりません。僕自身もテレビだけじゃなくて活字も好きだし、テレビじゃなきゃできないことがどれだけあるのか答えはわからないんですけど。どうせやるならNHKだし、テレビらしいものをやりたいという思いはあります。