ボールが止まっている瞬間。その場面もカメラは写し続けている。

元気を日本に 日本プロ野球2010

『日本プロ野球』とは……

2002年を境に、徐々に視聴率を落としていった日本のプロ野球中継番組。視聴者を取り戻そうとさまざまな試行錯誤を行ったが、目に見える回復は果たせなかった。行き着いた先は、「野球本来の面白さをシンプルに伝えること」だった。 
 
バックスクリーン側のアングル
─日本テレビでの野球中継が始まったのは1953年と、非常に歴史のあるスポーツ番組なんですね。今では当たり前になっているバックスクリーン側からのカメラアングルも日本テレビの発案とのことですが

後楽園球場で行われた、読売ジャイアンツ対大阪タイガースの試合が最初ですね。それから57年。当初はバックネット裏から打席を映していたのですが、1978年から現在のようなバックスクリーン側からのカメラアングルに変更しました。日本テレビがはじめて取り入れたアイデアで、それから野球中継の定番となりました。 
  

─近年、野球人気の低下により野球中継の視聴率にも影響を及ぼしているとのことが話題になりましたが、制作手法としての変化はありましたか?

視聴率でいえば、2002年が一番よかったですね。原さんが巨人の監督となったはじめての年で、松井秀喜選手が巨人に在籍していた最後の年です。その後は、ご存知のとおり視聴率は下がっていきました。 当然、制作者としては離れていく視聴者に戻っていただこうと考えるわけですが、そこで採用したのがゲーム的な見せ方。今の世代の人たちは、たくさんの情報が画面に並んでいてもゲームで見慣れていますから、あちこちに文字情報を置いたり、ベースボールカードのようなビジュアルを使って選手のプロフィールを紹介したりして、野球への興味をかき立てつつ、飽きのこない映像作りをしようとしました。とにかく、いろいろな映像やデータを入れようとしていたんですね。しかし、それでも視聴者は戻ってきませんでした。 僕自身は2003年から巨人軍の広報へと出向していまして、2006年の7月から現職に就いたのですが、そこで一度、シンプルに戻そうと決意しました。もちろんそれまでも、野球をわかりやすく伝えようという考えは根本にあったのですが、もっと野球そのものの面白さをきちんと伝える番組にしようと。そうでないと、視聴者が戻ってこないと思ったんです。では、どうすればいいか。そのひとつの答えが、ボールが止まっているときの見せ方でした。次の打者を迎えるときや、次の投球に移るまでの間など、野球にはボールが止まっている瞬間がたくさんあるのですが、そこの見せ方が大事なんです。以前は、次のバッター紹介をビジュアルで面白く見せたりとか、前の打席のVTRをたくさん流したりとか、映像を詰め込こうとしていました。しかし、ボールが動いていないときであれ、その間に守備位置が変更されていたり、ランナーに変化があったり、ベンチに動きがあったりと、いろいろな動きがある。むしろ、ボールが止まっている間に、ゲームが作られていくんですね。それが野球本来の面白さのひとつであり、視聴者に伝えられればと考えました。ですので、従来にあったような演出は極力減らし、今ではよりシンプルな表現方法になっています。 


─ 一時は巨人軍の広報に従事したとのことですが、なにか影響は受けましたか?


球団に在籍したことでの大きな収穫は、たくさんの試合を目にしてきたということでしょうか。オープン戦まで含めると300試合程度、巨人戦全試合の中継番組を他局も含めて観ることができました。それによって自分の引き出しが拡がりましたね。こういう演出方法があるとか、こういう視点があるんだとか、実況や解説者の話がどう受け止められるのかとか……。常に視聴者のことを考えるようにしていても、作り手の立場にいると視点の切り替えはなかなか難しいものがありますけど、在籍の経験はまたとない機会でした。作り手の立場から離れ、本当に一視聴者として番組を観て、わかりやすい見せ方や映像のこだわり、各局の中継のあり方、また野球そのものについても考えさせられました。ここでの経験が、今の画作りにおける原点になっていると思います。ディレクティングだけを考えれば、僕よりも最近の若いディレクターの方が手際もいいし、はるかに上手。でも、僕には多くの試合に接してきたという経験があり、それが引き出しの多さにつながっていて、彼らに方向性を示すことができていると思っています。そういう意味でも、球団に在籍していたことは、実りある経験でした。 また、選手とのかかわり合いにおいても、学ぶことがたくさんありましたね。たとえば、テレビへの露出や取材方法。選手にメディアへの露出を要請することは、ある意味で練習する時間を奪っているとも言えます。そのため、巨人の広報にいたときは「広報はチームの邪魔をするのが仕事」と言われることもありました。もちろん、貴重な時間を割いてもらっているという意識はそれまでも持っていましたが、選手たちの心情や考えを内部の立場から知り得たことで、練習に支障のない形で取材を組むよう、一層心がけるようになりましたね。そして、取材を受けることが、選手にとって必ずプラスになる方向へ導いてゆきたいと考えるようになりました。 


─“スポーツの中継”ですから、プレーヤーのプレーをどうのようにテレビ画面の向こう側にいる視聴者に、送り届けるかが肝だと思うんです。しかし、臨場感という面ではライブに勝るものはないわけで…。そこで、スポーツ中継というジャンルを制作するにあたり、どのようなところを意識しているんでしょうか? 
座席全景_カメラ_制作ガイドライン 
局によって違うのでしょうが、日本テレビの場合、ライブでわかることが大前提にあります。たとえば、この間のバンクーバー冬季オリンピックのスノーボードクロス競技では、ボードの先端に取り付けたカメラから臨場感あふれる映像が映し出されていましたが、競技中にライブでそのカメラを使うことは日本テレビではありません。万一、そのカメラの映像を使用しているときに選手が転倒したりコースアウトしてしまっても、何が起こったのか視聴者にはすぐにわからないからです。そうした映像は、競技終了後のリプレイで活用すればいい。なにがどうなったのか、ライブできちんと伝えられなければダメ。野球もしかりです。 

また、スポーツは、生で観戦する楽しみがあります。そのほうが、間違いなく臨場感にあふれていますし。しかし、残念ながら座席が決まっているのも事実。ゲームをいろいろな角度から眺めてみたり、駆け引きを味わうには、ちょっと難しいんですよね。でもテレビ中継なら、ちょっとした守備位置の変化やベンチで行われているやり取りを映し出し、野球の奥深さを伝えることができると思っています。これはテレビならではの大きな利点です。 

ドラマなどの番組制作に構成台本があるように、野球中継にもスタッフに配られるマニュアルがありました。しかし、マニュアルとなると、ただそれに従うだけになるんです。「これでいいんだ」「このトーンでいいんだ」というふうに。でも、野球中継でやるべき100%の内容が書かれているわけではなく、それをもとに自分で考えることが重要。そこで、マニュアルという言い方からガイドラインという言い方に改め、意識を変えようとしたんです。その中に、日本テレビの『野球の五カ条』というものがあるんですよ。『1、ボールへの集中 2、選手が主役 3、選手を褒める 4、全力疾走を評価する 5、巨人偏重を自戒する』という、制作者としての心得を示したものです。90年代から存在し、ずっと制作者の間で受け継がれていた哲学ですが、ガイドラインと改めたときから巻頭に大きく載せるようにしました。日本テレビの先輩諸氏が大切に受け継ぎ、育んできた哲学を、今、野球中継を守る我々の間でも徹底しておきたかったからです。 


─スポーツ中継において、プロ野球はどのようなポジションなのでしょうか?

今は多少変わってきていますが、私の頃はプロレスやボクシングなどハコモノ競技を任されるのが、スポーツ中継ディレクターとしての最初のステージでした。プロレスは場外乱闘もありますけど、基本的にはリングの中で行われるスポーツですから、撮り逃すこともありませんし、構成しやすいですから。ここでスポーツ中継番組の基本を学ぶんですね。その後、プロ野球やサッカーなどの中継を担当するのが、ディレクターとしての一般的な流れでした。僕の場合、入社してからしばらくはスポーツ情報番組に在籍していたのですが、その後、今は亡き三沢光晴さんらが活躍していた全日本プロレスに携わり、次にプロ野球へと移りました。 現在、日本テレビで制作しているプロ野球中継は年間で巨人戦72試合。地上波は22試合なんですが、BSもCSも制作しているところは同じですから、それだけの数に上ります。これほどやっているのって、野球だけなんですね。いろいろなスポーツ中継番組がありますけど、野球中継は制作機会が多いだけにスキルが向上でき、知名度も歴史もありますから、スポーツ局では野球中継を目指せと言われています。



powered by Yahoo!
    JAPAN

 

ご感想をお寄せください

当フォームより、ご意見・ご感想をお寄せください。
いただいたご意見・ご感想は番組制作者へお届けする場合がございます。

ご感想を入力
番組data
番組名 元気を日本に 日本プロ野球2010 ジャンル スポーツ
放送局 日本テレビ放送網
放送日時 19時から20時54分
番組URL http://www.ntv.co.jp/baseball/index.html
主なスタッフ チーフプロデューサー・高橋知也、プロデューサー・岡田謙吾 スタッフ数 約15名
主な出演者 解説者・山本浩二、堀内恒夫、池谷公二郎、中畑清、江川卓、
水野雄仁、清水崇行など(敬称略)
放送開始日 1953年8月(2010年で57年)

最新のインタビュー