プレーの最高の瞬間をおさえるために予測しながら選手をおってゆくカメラ

Jリーグ中継

『Jリーグ中継』とは……

他スポーツに比べて長時間プレーが継続するサッカーの制作には、経験や知識のほか、シンキングスピードの高さが要求される。最新の撮影技術の導入も検討しながらも、あくまでわりやすい番組作りを追求していく。

サッカー2
─他のスポーツ中継と比べ、サッカー競技ならではの苦労はどんなものでしょうか?

江部 「なんといっても、前後半それぞれ45分もの間、途切れないことですね。サッカーは試合が止まることなく、ゴール近くのカメラへの切り替えやスローVTRを出すタイミングなどを局面ごとに判断していかなければならないため、ディレクターにはシンキングスピードの高さが要求されます。基本的には、競技場全体を俯瞰するベースカメラが8割近く占めることになるのですが、シンキングスピードが遅いとすべてが後手後手に回ってしまいます」   


─その選手の早い動きに対応するために、カメラは何台使用しそれをどのように設置するのですか?

相川 「中央に設置するベースカメラを基本に、フリーキックなどで縦方向の位置を見るカメラ。選手が近くでプレーする時にアップサイズで撮ったり、ゴール前の迫力ある攻防が撮れるよう、ゴール近くのライン際にも置きます。あとは、ベンチの様子をとらえるための動きのいいハンディカメラと、ベースカメラ横に選手をアップサイズで撮すカメラを置いて。基本はこの6台編成です。 ただ、注目度の高い日本代表戦や天皇杯決勝などで、もっといろいろな角度からプレーを見せたり、選手の表情を切り取りたいとなると、カメラ台数は飛躍的に増えていきます。6サッカー1台でも試合をカバーできますが、最大で20台ほどまで拡大することがあります。」

江部 「台数が拡大したときは、ベースカメラが3台になるんですよ。中央からは全体が見渡せるのですが、一番盛り上がるゴール前は角度がついてしまうので、やや見づらくなるんですね。そのため、左・中央・右に置くんです。実際、左のベースカメラから中央のベースカメラというふうにスイッチすることはありませんが、局面を判断して、そのときにちょうどいいカメラを選ぶようにしています。最大で20台といいましたが、観客席を向いているカメラなどをのぞき、3つのベースカメラにカメラが数台ずつフォローしているというイメージです」


─カメラ台数が多いと、統括する中継車のディレクターは大変になりますね!?
それをどのように掌握しているんでしょうか?


江部 「ボールとプレーの関係から使うべきカメラはだいぶ絞られてきますし、基本はやはりベースカメラ。右手にいったらこれらのカメラ、左手ならこれらのカメラという風に決まりますから、極端な話、カメラが100台200台あっても、瞬間瞬間で必要となるカメラは数台しかありません。どれだけ理屈・理論としてスイッチングを習得し、シンキングスピードを速めながら判断して、次のプレーを予測するか、ということが重要です」

相川 「ベースカメラには、経験の豊富なカメラマンがつきます。経験やチーム特性から、この展開なら前線にボールが放り込まれる可能性が高いとか、守備をすぐに整えて待ち構えるとか、そうした知識や経験、センスがあってこそ、きちんと試合を見せることができます」 
  
江部 「さらにいえば、ベースカメラはボールを追っていれサッカー3ばいいというわけではないんです。寄りで臨場感を出す、引いて全体を見せるということでなく、戦略上、必要となる最小限の画角で抑えるというのが理想です。ヨーロッパのサッカー中継でスゴイとい思うのは、その点ですね。何十年とベースカメラを担当したカメラマンがいて、チームのことも知り尽くしているというような人がいる。サイズを的確なところまでアップして、不必要な情報を切ることができるんです。我々も最近では、なるべくベースカメラの画角を上げるようにトライしています。引きの画角だと戦術がよくわかりますが、どうしても人間が豆粒のようにしか見えない。画角が上がれば選手の表情が見えて、何を考えているのかも想像しやすくなります。サッカーファンなら戦術も魅力のひとつでしょうが、より一般の視聴者のことを考えると、やはり選手そのものにスポーツのおもしろさが見出せるのだと思っています」


─海外には、それほど優秀なカメラマンがいるということですね?

江部 「本当にサッカーを知っていて、試合の流れを完全に読み解くことができるんですよ。ワールドカップなど一流の試合でベースカメラを動かせるのは、世界で15~20人くらいのトップクラスのカメラマン。職人ですね。それを目指せというのはなかなか大変ですが、ちょっとでも近づいていかないと視聴者の満足度も高まりません」


─長い歴史のなかで、撮影機材の変化などはありましたか?

相川 「野球ではミートポイントがよくわかるスーパースローというものも出てきましたが、サッカーはどこでシュートするかわからないから、なかなか難しいですね。いいシュートだと思っていたら、実はナイスセーブだったということもありますし。現在導入を検討しているのは、常にピッチ全体を俯瞰するカメラの設置です。ハイビジョンの4倍の画質があるスーパーハイビジョンカメラでは、どこか一部分を切り出して拡大しても、キレイな映像で映し出せるんです。これを使ってピッチ全体を広いサイズで収録しておけば、通常なら画面の外で行われていた悪質なファールも、VTRを巻き戻して確認することができるようになります」

江部 「開幕から約16年が経ちましたが、Jリーグ中継のあり方というのは、間違いなく変化してきています。90年代初頭はハイビジョン化の黎明期であり、その後、90年代終盤に向ってグローバルスタンダードとなりました。ハイビジョンの16:9という画角はサッカーに極めて適合したフレームサイズでしたし、各カメラの振り方や狙いなども進化してきたと思います。ただ技術の革新は重要なことですが、私は、技術が前提となった考えはあまり好きではありません。競技場の上空を動き回るワイヤーカムなど、いわゆる飛び道具系カメラがスーパーボウルなどで使われ、これまで見たことのなかったような迫力ある映像が生み出されましたが、サッカー中継でそれが必要なのかどうかと考えると、わかりません。おもしろそうだから使ってみようという発想はありだと思いますが、サッカーの魅力をきちんと伝える画作りに不可欠の要素なのかというと、まだ答えが出ません。結果として見にくくなったり、『もっと普通に試合を見せてよ』ということにもなりかねません。プロスポーツ選手は、彼らの信念や生活をかけて戦っているわけですから、尊敬の念をもって放送すべき。興味本位だけで切り貼りするのではなく、あくまで世界のスタンダードに見習った構成で、しかし日本のサッカーに合った、日本の視聴者に向けての番組を作っていきたいと考えています」


─スタンダードというと、ヨーロッパのサッカー番組ということでしょうか。

江部 「そうですね。ただ、やはりJリーグとヨーロッパリーグでは、サッカーの質や内容が違うところがあるので、単純に真似するだけではいけません。カメラの設置場所や画をマネすると、たしかにヨーロッパっぽく見えるんですが、サッカーの内容が違いますから、撮れるものはまったく変わります。どっちが良くて悪いのかという話でなく、実際に違っているんです。そのため、Jリーグならではの特徴や魅力をまじめに熟考した上で、番組の最適な作り方を導き出そうとしています」






powered by Yahoo!
    JAPAN

ご感想をお寄せください

当フォームより、ご意見・ご感想をお寄せください。
いただいたご意見・ご感想は番組制作者へお届けする場合がございます。

ご感想を入力
番組data
番組名 Jリーグ中継 ジャンル スポーツ
放送局 日本放送協会
放送日時 総合テレビ、BS1
番組URL http://www.nhk.or.jp/sports2/soccer/soccer.html
主なスタッフ プロデューサー・江部賢治、
ディレクター・相川直人(敬称略)
スタッフ数 1試合 約30人
主な出演者 解説者・加茂周、山本昌邦、木村和司、早野宏史、原博実、
小島伸幸、宮澤ミシェル、山野孝義(敬称略)
放送開始日 1993年4月 「Jリーグ中継」開始

最新のインタビュー